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色彩を取り戻す、カウンセリングという体験

  • Writer: popo
    popo
  • 12 hours ago
  • 5 min read

色彩を取り戻す対話

― 開かれた共感と「ともに在る」関係性 ―


海外での暮らしや日本国内の転居を重ねるなかで、文化や言葉の違いが新しい光を投じる瞬間があります。その光はたくさんの新しい刺激を含んでおり、ときに眩しく、ときに影をつくります。たとえば、心の隅に隠されていた感情や考えがふと浮かび上がってくるような、そんな瞬間です。けれどその刺激が織りなす光と影の中で、人と人とが、あるいは自分自身に、出会いなおす時間が生まれるのだと、私は感じています。

私は臨床の場で、クライエントの苦しみを「治したい」「解決したい」と考えているわけではありません。もちろん、回復は願います。ですが、それよりも、開かれた共感と自己一致を保ちながら、その人の世界をともに歩くことを大切にしています。

私たちの関係は、時に泥水がじんわりと染み込みこんでいくように、綿あめが水に溶けていくように、異なる存在同士が溶けあい混ざり合うような、関係が深まる体験が少しずつ積み重なっていきます

カウンセリングは、そうした体験を重ねる中で、やがて色彩を取り戻していくような旅でもあります。


「ともに在る」ということ

ときどき、どんなに丁寧に言葉を交わしても、その言葉がすべっていくように感じられる瞬間があります。会話をしているはずなのに、どこか心の奥までは染みてこない。そんなとき、まだ本当に出会っていないような、届いていないような感覚を抱きます。

けれども、泥水がじんわりと染み込むように、落とした綿あめが静かに溶けていくように、心と心が混ざり合うような瞬間に触れたとき、それは決して清らかであるだけではなく、不器用で、ときに土臭いような、人間の深い関わりだなあと感じられるのです。

そのような時間の中で、私は「私」と「あなた」の境界がふとゆるみ、世界が少しずつ色を取り戻していくのを感じます。


心理学の世界で有名なCarl Rogersは、その臨床観、考えや姿勢について


“It is the person who is the therapy.”(セラピーとは方法ではなく、その人自身である)


などと表現されることがあります。

つまり、セラピストは「何かをする人」ではなく、「ともに在る人」としてそこにいるとき、小さな変化の芽が生まれます。それは“解決”ではなく、クライエントが再び、自分の内側に息づく力を思い出していくような変化です。


Relational Depth ― 深い関係性

また、英国の心理学者Mick Cooperは、このような瞬間をRelational Depth(深い関係性)と呼びました。


“Relational depth is a state of profound contact and engagement between two people, in which each person is fully real with the other.”

(深い関係性とは、二人の人間が互いに完全に真実のままで触れ合い、深く関わっている状態をいう。)

  — Working at Relational Depth in Counselling and Psychotherapy (Mearns & Cooper, 2005)


fully real”――「完全に真実」であるという言葉には、セラピストもクライエントも「役割」ではなくひとりの「個人」「人」として出会うという意味が込められているようです。

その瞬間、言葉ではない、存在と存在のあいだで起こる何かが生まれセラピューティックな関わりとして深まっていくのでしょう。そしてその深まりの中で生まれるものは、単に“理解”ではなく、より深みを持った理解のあり方、“共に感じること”なのだろうと考えるのです。


「にじみ合う」私とあなた

人は、考えや感情、身体感覚、記憶など、さまざまな要素がにじみ合いながら生きています。

それは融合ではなく、共鳴(resonance)。お互いの輪郭が一瞬やわらぎ、「あなたの中に私が、私の中にあなたが」現れるような瞬間。

Rogrersの「存在的出会い(existential encounter)」、Cooperの「Relational Depth」は、まさにこの共鳴の瞬間を指しているのだろうとも考えるのです。


景色をともに眺めるということ

いろいろ長くなってしまいましたが、こういった経緯もあり私にとってカウンセリングは、問題を消すことや、正しい形に整えることとは異なる感覚があります。むしろ、ひとりひとりの世界が少しずつ色を取り戻していく過程を、ともに歩みながら見つめていくことです。

「自分の力を取り戻し人生のかじ取りを行う」「生きることの彩りを再び感じ取る旅」なのかもしれません。そしてその旅の途中で、セラピストもまた、同じ風を感じながら生きています。


Cooperはこう言います。

“It is not about doing something to the client, but being with them in a way that allows their experiencing to deepen.”(クライエントに何かを“する”のではなく、クライエントの体験が深まっていくような“在り方”でともに在ること)

この「ともに在る」という静かな深みの中で、心が少しずつ動いていくのを感じます。

それは“治療”というよりも、“出会い”の物語なのだと理解できそうです。


カウンセリングのハードルを、ほんの少しだけ下げて

カウンセリングは、「特別な人が受けるもの」ではありません。

もしも「障害者だと思われてしまうかもしれない」とか、「誰かに見られたら恥ずかしい」などという不安を持っていらっしゃるとしたら、そういった偏見からぜひ勇気を出して一歩を踏み出し、あなた自身が真に必要としているようであるものに踏み込んでみていただきたいと願います。

カウンセリングは偏見を取り払い、あるいはときに不合理な考えに気が付き、深くみつめながら整理して理解し、また自分の力で進んで行くためのエネルギーを蓄えるような場所です。

そこには、悩みの大きい小さいも、悩みの程度の比較も、話のうまい下手もありません。

誰かに「聴いてほしい」「理解してほしい」と思ったことがあるとしたら、もうすでに、その扉の前に立っています。

セラピストは「指導者」ではなく、あなたの「隣に座る人」。

あなたの言葉を待ちながら、まだ言葉にならない思いの揺れに耳を傾ける人です。

私たちは皆、どこかで誰かと繋がりながら生きています。

そのつながりの中で、ふと世界がやさしく見える瞬間が訪れることがあります。その瞬間こそが“治す”よりもはるかに深い、癒しの始まりなのかもしれません。


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