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心の「回復」とは?

  • Writer: popo
    popo
  • Oct 21
  • 7 min read

心の回復というと、どのようなイメージが湧くでしょうか。


「元気になる」

「前の自分に戻る」

「もう大丈夫になる」

そんなイメージを抱かれる方もきっとたくさんいらっしゃるかと思います。


なにか大きな出来事があって傷ついた心、細かな傷つきを重ねて複雑に傷つき疲れてしまった心…いろんな場合がありますね。


結論からお伝えすると、実際の“心の回復”は、決して一直線の道ではありません。

揺れながら、迷いながら、時に後戻りしながら進むような、複雑さを持っていることがほどんどです。


臨床心理学やリカバリー研究では、回復は「苦しみが消えること」ではなく、**“苦しみと共に生きながら、自分らしさを取り戻していく過程”**と捉えられています。


重要なのは「症状が完全に消えること」ではなく、たとえ困難や制約を抱えていても「自分らしく、意味ある生活を再構築する力」を取り戻すことです。


以下でもう少し詳しく研究を紹介しつつ考えてみたいと思います。


〇回復は「元に戻ること」ではなく「新しい自分と出会うこと」


アメリカの心理学者ウィリアム・アンソニー(Anthony, 1993)は、回復とは、

「もはや問題がない状態になることではなく、困難を抱えながらも自分らしく生きる希望を取り戻すこと」

「態度・価値観・感情・目標・能力・役割の変化を通じて、たとえ疾患や困難があっても満足できる・希望ある・貢献できる生活をしていく過程」

だと述べています。


つまり、“完全に治る””元の状態に戻る”というよりも、

“自分との新しい付き合い方を見つける”ことが、回復の本質である、ということです。


単に症状の消失を意味するわけではない、ということがわかりますね。



〇回復のプロセスは波のように進んでいく


心理的リカバリーの研究では、多くの人が「良くなったり、また落ち込んだり」を繰り返す、「段階的に移るが往復する」モデルを示しています。

Andresenら(2003)は、回復を次のような4つの段階で説明しています。


  1. 停滞期(Moratorium):希望を失い、無力感や閉塞感を抱く。外界からとじこもりやすい。

  2. 気づき期(Awareness):小さな希望や変化の兆しに気づく

  3. 準備期(Preparation):自分を理解し、支援を求め始める、行動の準備をする。

  4. 再構築期(Rebuilding & Growth):新しい価値観や生き方を見つける。生活や役割を取り戻していく。


この流れは一方向ではなく、行きつ戻りつしながら少しずつ広がっていくようなものです。

そして重要なのは、「後退が頻繁に起きる」という点です。

ある段階に達しても、状況・体調・環境の変化で一時的に停滞や後退が起きるのは正常な現象であり、プロセスの一部と捉えられる場合が多くあります。

なので、状況に一喜一憂しすぎないように客観的視点を持って考える・フィードバックを受けることも、助けとなる大切な要素となってくるかもしれません。



〇トラウマからの回復


トラウマに関する研究や臨床の実践は今大きな注目を集めていますが、Judith Herman が示したトラウマ回復のプロセス(段階)は臨床で広く使われています(Trauma and Recovery, 1992)。


概略は以下の3段階です。

  1. 安全の回復(Safety):まず身体的・心理的な安全を確保する。

  2. 記憶と思い出すこと(Remembrance & Mourning):トラウマ体験の記憶化、悲嘆の処理、物語化。

  3. 再連結(Reconnection):自分とコミュニティとの関係を再構築し、未来へ向かう。



2つの回復モデルの共通点

  • どちらも「段階的」「非直線的」「意味の再構築」を重視するという点で一致しています。(安全→気づき→再構築など、対応関係がある)行きつ戻りつをしながら回復のプロセスをたどっていきます。

  • また、両モデルとも「他者との関係(支援や共同体性)が回復に不可欠」と強調します。


両者の違い

  • 一般的な心理的リカバリー(精神疾患や困難からの回復)は、アイデンティティや役割の回復・再定義に重心があります。

  • トラウマ回復は「安全・コントロール感を取り戻すこと」「トラウマ記憶の処理(話す・物語化)」「社会・コミュニティとのつながり」という順序が臨床的に重要で、治療戦略(暴露療法、トラウマフォーカスト療法、段階的アプローチなど)に強く結びつきます。


まとめると、トラウマ回復は“特に安全と記憶の処理”を強調する回復の専門形で、一般的な回復モデルと多くの基盤(意味づけ・社会的支援・非直線性)を共有します。


どのような理論や介入方法においても、どこにフォーカスするかによって、考え方やアプローチの仕方に差や違いが生じることはとても自然なことです。どのアプローチが正しいかというよりも、さまざまな状況を踏まえてアプローチの方法を変えて、より適切なアプローチを行うことを目指します。



〇 回復を支える3つの心の動き

ここまで回復についていろいろと書き出してみました。まだまだたくさんの理論や研究、視点があることを承知しつつ、全てを書き切ることも難しいため、書き出したことが全てを網羅的に説明できているわけではないことは強調しておかなければなりません。

そのうえで、以下に回復を支えるのに助けとなり得る力や考えについてご紹介してみたいと思います。


① 自分を観察する力(メタ認知)

自分の感情や思考を少し離れて見つめ、「いま、私はこう感じているな」と気づけること。これが、感情に飲み込まれすぎないための土台になります。(Lysaker et al., 2010)


② 希望の再構築

「元気になる」というよりも、「今の自分にも生きる力がある」「選択できる」——そういった小さな希望たちが、回復の動力に繋がっていきます。

希望は一人の中に自然に生まれるというより、他者との関係性の中で育つことが多いといわれます。(Davidson et al., 2005)


③ 自己受容とセルフコンパッション

「こんな自分はだめだ」と批判するかわりに、「いまの私はつらい。それでもよく頑張ってる」と優しく気づくことも大切な力でもあります。

これは決して弱さや甘やかしではなく、このような態度がレジリエンス(回復力)を支えることが研究でも示されています。(Neff, 2003)


〇 後退や停滞も「回復の一部」

臨床の場でも、「よくなったと思ったのに、またつらくなった」「前よりも落ち込む」というときはとてもよく起こります。

ですがそれは、一段深い層に触れ始めたサインと考えられることがたくさんあります。

つらいときに、「進んでいる証拠だ!」と無理に思いこもうとしすぎる必要はありませんが、他方では「後退」ではなく、「進んでいるからこその揺らぎ」「次のステップに入るための揺れ」と捉えることができることも確かなのです。




〇 回復を支える環境、回復を支える要因とは


  • 安全で信頼できる関係(Rogers, 1957; Topor et al., 2006)

  • 自分で選び取る感覚(autonomy)

  • 苦しみの意味づけ・再構築(Park, 2010)

  • 「時間」

回復はマラソンのようなもので、数年かけて少しずつ形を変えながら進む人も多いのです。

私はブランコに例えることがあるのですが、急に大きく漕ぎ出そうとするのは大変なエネルギーが必要です。最初は小さい揺れから徐々に大きくなっていったり、時に大きく漕ぎ出すために後ろに引くこともあります。

思ったように進めなくてモヤモヤするとき、足踏みしているようでイライラするとき、後退したように感じられてショックなとき。

その気持ちもありのまま大切にしながら、何が起きているかについて再度考えてみてもいいですね。


〇回復の過程は人それぞれ


日々研究がなされ、「こんな感じの回復のプロセスを歩むとされますよ」という目安が見えることは心強さがある一方で、必ずしも全員が同じように、同じペースで心の回復のプロセスを歩むわけではありません。

人それぞれ、社会や状況など、個人レベルではないようなこととも影響を及ぼし合いながら、その人のプロセスを進んで行きます。

数日、数カ月、数年単位でのプロセスになる場合もあります。

しかしこればかりはわかりません。

ゆっくりに感じられたとしても、それはその人のせいなどではありません。

支援・制度・社会的環境が整うことも大切な鍵であり、個人の努力だけに帰せられないという視点もどうか忘れないでいただけたらと願います。


光と影がゆっくりと混じり合うような時間の中で進んでいきます。

苦しみを消すことではなく、その中でも自分らしさを見つけ直す。

その歩みの中にこそ、人のしなやかな強さがあると信じています。

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