【安心感】ってなんだろう。心がホッとできる理由を心理学・脳科学から考える
- popo

- 7月14日
- 読了時間: 7分
生活をしている中で、ふと
「なんとなく気が張っている。」
「大きな問題があるわけじゃないのに、疲れやすい。」
「誰かに会っていても、どこか落ち着かない。」
こんな風に感じることはありますか?
私自身、日本を離れて海外で生活をする中で、そんな感覚を経験したことがあります。
なんだか疲れるような、落ち着かないような、ホッとしきれない感覚。
もちろん、新しい文化や誰かに出会える楽しさや、海外だからこその学びもあります。
でもその一方で、言葉や制度、人間関係、家族との距離など、日本で暮らしていた頃には意識することのなかった小さな緊張が、確かに毎日の生活の中に積み重なっていきます。
「海外生活のストレス」「社会的支援の減少」がメンタルヘルスに影響する、という研究も多くあるので、ご関心のある方はぜひオープンアクセスの論文などご参照されてみてくださいね。
そんなとき、スムーズにいかない感じがもどかしかったり、「もっと前向きに考えよう」「頑張ろう」と自分を励ましても、なかなか気持ちが軽くならないことがあります。
しかしそれは、あなたの意志が弱いからでも、努力が足りないからでもありません。
頑張っているのにつらい、頑張り切れない、なんだか落ち着かない、緊張する…そんな思いで苦しいとき。
もしかすると、あなたの心や身体は「安心」を必要としているのかもしれません。
安心感とは、「危険がないこと」ではありません。
心理学や精神医学、脳科学(ポリヴェガール理論など)では、安心感がある状態とは「不安がゼロ(全くない)の状態」とは考えられていません。
私たちの脳は、常に周囲の環境を観察しながら、
「ここは安全だろうか。」「警戒を続けたほうがいいだろうか。」
と無意識に判断しています。
この働きは、人間が生き延びるために欠かせない大切な仕組みです。
例えば、道路に車が飛び出してきたときには、すぐに身体が反応できるように、脳は危険を素早く察知します。
一方で、この警戒モードが何日も、何週間も続くとどうなるでしょう。
身体は休まらず、眠りが浅くなり、些細なことにも敏感になります。
イライラしやすくなったり、集中できなくなったり、「何もしていないのに疲れる」と感じることもあります。
つまり安心感とは、
「もうずっと警戒し続けなくても大丈夫」と、脳と身体が感じられている状態
と言えるでしょう。
海外生活では、なぜ安心感が揺らぎやすいのでしょうか。
海外で暮らしていると、特別な出来事がなくても、安心感を支える土台が少しずつ揺らぐことがあります。
例えば、
英語での電話や会話。
学校から届く長いメール。
病院の予約。
役所や銀行での手続き。
スーパーやお店、街で店員さんに話しかけられること。
一つひとつは決して大きな出来事ではありません。
でも、「ちゃんと理解できるかな」「失礼じゃなかったかな」と、小さな緊張が積み重なっていきます。
さらに、困ったときにすぐ頼れる家族が近くにいない。
昔からの友人がいない。
「ちょっと聞いてほしい」が言えない。
そんな状況では、脳は無意識のうちに、「自分で何とかしなくてはいけない。」というモードになりやすくなります。
これは決して弱さではありません。
環境が変われば、人の神経系もその環境に適応しようとする、ごく自然な反応なのです。
心理学から考える、「安心感」を支える5つの土台
現在の研究を総合すると、安心感は一つのものではなく、いくつかの要素が重なって生まれると考えられています。
今日は、その中でも特に大切だと考えられている5つをご紹介します。
① 身体が「安全だ」と感じられること
心と身体は切り離せません。
睡眠不足の日は、普段なら気にならない一言が気になったり、空腹のときはイライラしやすくなったりしますよね。
脳は、
「ちゃんと眠れている?」
「十分に食べられている?」
「身体は疲れすぎていない?」
ということを確認しています。
つまり、心の安心は、身体の安心の上に成り立っている(ストレス反応をさげ、自律神経を落ち着かせようとします。)のですね。
なので、セルフケアは「甘え」ではありません。
休息や食事、呼吸、適度な運動は、脳に「今は安全だよ」と伝えるための、大切なメッセージでもあるのです。
② 「次に何が起こるか」がある程度わかること
私たちの脳は、「わからないこと」が苦手です。
例えば、
気分によって態度が変わる上司。
急に怒り出す家族。
返信が来るかどうかわからない大切な連絡。
これからなにが起こるのかみえない状況。
こうした「予測できない状況」は、それだけで神経を疲れさせます。
海外生活でも同じです。
文化の違い、制度の違い、学校や医療の仕組みなど、「何が正解かわからない」状況が続くと、脳は警戒を続けます。
逆に、小さな生活リズムや、「困ったらここに相談できる」という見通しがあるだけでも、人は安心しやすくなります。
③ 「自分にはできることがある」と感じられること
私たちはすべてをコントロールすることはできません。
でも、「自分で選べることがある」と感じられるだけで、人はストレスに強くなります。
心理学では、これをコントロール感や**自己効力感(Self-efficacy)**と呼びます。
例えば、
病気そのものは変えられなくても、
「次の受診で何を質問するか」は自分で決められます。
子どもの学校をすぐには変えられなくても、
「今日は先生に一つ相談してみよう」は選べます。
安心感は、「すべて解決している状態」ではなく、「自分にも何かできることがある」と感じられることからも育まれます。
④ 「一人ではない」と感じられること
心理学には、「安全基地(Secure Base)」という考え方があります。
それは、「何かあったら戻れる場所」や「助けを求めても大丈夫と思える存在」のことです。
ここで大切なのは、いつも誰かが隣にいることではありません。
「もし困ったら相談できる人がいる。」
「この人なら話を聞いてくれる。」
そんな感覚があるだけで、人の心は驚くほど安定します。
海外生活では、この安全基地を失ったように感じる人も少なくありません。
だからこそ、新しい土地で「安心して話せる人」や「ありのままでいられる居場所」を見つけることには、大きな意味があります。
⑤ 自分自身が、自分の味方になれること
最後は、とても大切な安心です。
失敗したとき。
落ち込んだとき。
何もできなかった日。
そんな日に、
「私はダメだ。」
ではなく、
「今日は大変だったね。」
と自分に声をかけられること。
近年の心理学では、このような**セルフ・コンパッション(Self-Compassion)**が、安心感やレジリエンスを支える重要な要素として数多く研究されています。
もちろん、すぐにできることではありません。
新しい行動や考え方である場合には、体験したり、少し練習をしてみることも必要になってきます。
ですが、自分を責めることだけが前に進む方法ではない、と知るだけでも、少し心が軽くなる人もいます。
安心できると、人は動き出せる
面白いことに、心理学では、
安心すると、人は甘えるのではなく、むしろ挑戦しやすくなる
ことが繰り返し示されています。
子どもが親のもとを離れて遊びに行けるのも、「帰ってこられる場所」があるからです。
大人も同じです。
安心できる場所がある人ほど、新しいことに挑戦し、人に助けを求め、失敗から立ち直りやすいことがわかっています。
安心は、立ち止まるためのものではありません。
安心は、また一歩を踏み出すための土台なのです。
最後に
海外生活では、「もっと頑張らなきゃ」と自分を励まし続けてしまう人が少なくありません。
でも、本当に必要なのは、頑張ることではなく、「安心して休める場所」なのかもしれません。
Your Perchという名前には、「止まり木」という意味があります。
鳥は、飛び続けることはできません。
疲れたら羽を休め、周りを見渡し、力を蓄えて、また飛び立ちます。
人もきっと同じです。
安心できる場所があるからこそ、また自分らしく前を向いて歩き始めることができる。
そんな「止まり木」のような場所を、少しずつ一緒につくっていけたらと思っています。

コメント