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Adolescence(アドレッセンス)の感想メモ(内容に触れているのでご注意ください)

  • 執筆者の写真: popo
    popo
  • 11月27日
  • 読了時間: 6分

話題のNetflixの『アドレッセンス』を観ました。

以下に内容に触れた私の個人的な感想をしたためますので、まだ本作品をご覧になっていない方は十分にご注意ください。


現在住んでいるロンドンの友人の多くも観たとのことで、一緒に考察や感想で話が膨らむほどでした。本当に話題の作品なんだなと言うことが感じられています。

全4話(1話50~1時間ほど)で、あまりの臨場感から入り込んでしまい4話一気に観てしまいました。サイドに用意していたコーヒーは気がついたらすっかり冷めてしまっていました。


観終えたあと、胸の奥がずーんと重いような、スッキリとはいかないような、ひっかかるような、でも希望も確かにあるような、そんな感覚を覚えました。


イギリスで暮らし、心理の仕事をしている状況である今の私の視点からは、「ああ、いまこの瞬間にも、どれだけの人が目に見えない心の溝を歩いているのだろう。」そんな想像が刺激されるようなストーリーでもありました。


思春期の“影”と”もがき”

 主人公は13歳の男の子、ジェイミー。

 ある朝殺人の容疑で逮捕されるところから物語が始まります。そこから展開される真相を探る過程、家族、警察、学校、友人、周りの人たち…

 決して主人公ひとりのものではなく、スマホの画面の向こうのSNSの世界、親の知らない時間、子ども同士の複雑な関係性と、いわゆる”大人”へ近づいていく過程の、心身に大きく変化が生じて不安定になりがちな時期ともされる10代の青年期(Adolescence)を懸命に生きている子どもたちの世界…。

全編ワンカットで撮影されているとのことで、その時間の流れの中に一緒にいるような、時間の流れ、空気感、間、沈黙、緊張感といったものが感覚がよりリアルに伝わってくる(入り込める)ような作品に感じられました。


ドラマを鑑賞している際、私は何度もその"わからなさ"に立ち返らされました。

親がどれだけ思いを寄せても、わかりきれない部分、届かない部分がある。

本人でさえ説明できない、生活の中で影響を受け作り上げられた考え方や心の動きがある。そして胸の中にある思いをうまく言葉にできないまま、感情だけが先に暴れ出すこともある。気づかないうちに、知らず知らずのうちに影響を受けていること、感情が膨れ上がってしまっていることは起こりえて、子どもたちは「分からなくて当然」のところを抱え、ときに痛みを抑えながら、大人に見えない世界も生きているのだろう、と。


アダムという“もうひとつの可能性”

警察官である父の息子、アダム。彼も本当に重要なメッセージを放つ人物の一人だったように感じています。アダムもまた、ほんの少しの違いで、ジェイミーの位置に立ち得たのではないか。

そう思えてしまうような対比的な“香り”を感じずにはいられませんでした。

粗雑な表現にはなりますが、「正しい環境にいるように見える子」「親が理解しているように見える子」といった見え方捉え方は間違いや抑圧を生じさせうる危険をはらんでいる、と改めて感じさせられるような感覚を抱きました。

アダムとジェイミーの父親のふるまいかたには、良し悪しではなく”違い”がありました。

違う人間なんだから当たり前だろう、と言われればそうなのですが、違いについての描写も本当に素晴らしく感じられているところなのです。

そして”子ども”もまた、正解不正解ではなく、その子の世界からよく大人や周りを見て、感じている、理解しているのですね。

どんな子でも、一瞬で心のバランスが傾き得る一人の人(子)という存在であり、大人もまた、完璧ではない、間違える、脆さを持つ存在であることを改めて理解させられるようでした。

私たちもまた、ついいろんなフレームやラベルを張っていろんな人や物を判断してしまいがちですが、ひとりひとりの人間はそのフレームやラベルに当てはまるわけではない、そういった見方では相手の理解に近づけない、そんなメッセージも感じられるようでした。


見えない部分に寄り添おうとする心理士の姿

第3話はジェイミーとブリオニー心理士の5回目の面接の会。

私は彼女のその姿勢、話し方、呼吸の合わせ方、微妙な眼差しの向け方。どれを取っても「そこにいること」そのものが介入になっているようで、なんてリアルな心理士の像なのだろう、と息をのむようでした。

優しくうんうんと話を聴くだけではない、悩みを聴いてアドバイスしたり気休めの言葉をいうのではない、必要に応じて自分にとって厳しさや辛さと向き合う時間ともなりうるような空気が伝わるような内容だったのではないかと感じられています。

そして、本作の心理士が女性心理士、というのも本当に大切なポイントでした。

「男性らしさ」「男性性」への考えを探っていく姿勢と、ジェイミーの考え、警備員のあり方とブリオニーの対応の在り方など、重要なメッセージがいたるところに散りばめられていて、全く目の離せない、ずっしりとくるような内容でした。


“ことば以前に、その人の世界にそっと触れる”

”速さではなく正確さを求める”

という感覚。


心理士についてこんなにもリアルに描かれていることを本当に素晴らしく感じ、また、こういった仕事の一面もあるのか、とイメージに役立てていただけたらと願ってしまいたくなるような思いも湧いてきました。

画面越しに丁寧に描かれているブリオニー心理士のその姿勢に、思わず私も背筋が伸びるようでした。



『アドレッセンス』のメッセージの考察

タイトルがAdolescenceというのも素晴らしいなあと感じずにはいられませんでした。

Pubertyという思春期をあらわす言葉もありますが、身体的な変化に注目するだけでなく、アイデンティティ(自分とは何者か)といった心理社会的な成長の時期でもあることをニュアンスとして含んでいるAdolescenceという言葉の方が、本作品にはマッチしていたのだろうと考えています。


単純な「思春期は難しい」「”男らしさ”という考えを持たないように」「SNSは危険」などという話ではないように感じられています。

もっと曖昧で、深く薄暗くて、人間的で、ハッピーエンドでみんな笑顔、とはいかないリアルさ、連鎖と時間経過の過程を、より現実的に思えるストーリーとして体験できるドラマのように考えます。


  • 親は、すべてを理解できるわけではない。

  • 子どもは、いつも危うい綱の上を歩いている。

  • 大人の正しさは、ときに届かない。

  • ときに人を受け入れられなかったり下に見たりするような危うさ、脆さは誰にでも生じうる。

  • それでも、誰かが「そこにいてくれること」が、子ども(大人も)を救い得る。

  • 真剣に自分と向き合うことで、乗り越え、また自分の力で前へ歩き出すことが出来る力強さを持ちうる。

そんな、人間の心の複雑さと脆さ、そしてかすかでも力強い希望が、この作品には確かに存在しているのではないでしょうか。

最終話の終盤も、ジェイミーと家族のやりとりの過程に、深い感情を体験せずにはいられませんでした。



国内のみならず、日常で、人間関係で、海外生活で、見えない苦しみを抱える方、親・子は決して少なくなく、また、それぞれの個人・ご家庭での悩み、難しさが存在していることは決して珍しくはありません。

つらくてしんどくても、相談することが恥ずかしい、情けない、ダメなやつだと思われるのではないか、といった思いを抱かれ、さらに苦しまれたり、相談できない状況になってしまわれる方は、決して少なくありません。

また、相談に来るほどではないような気がするのだけれど、胸の奥に静かに痛みを抱えている人も少なくはありません。

『アドレッセンス』は、その“静かな痛み”を、そっと光に当ててくれるような作品だったのかもしれません。

4話とは信じられないほどの深さとボリューム感で、素晴らしい作品でした。ありがとうございました。

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