エリクソン(E.H.Erikson)は、人間の発達を8段階に分け、人は生涯発達する、という理論を提唱した人物としても心理学の分野において大変有名です。
生まれてから命を終えるまで、人はその年齢に応じた発達を遂げていく、という考えですね。
今回はその生涯のうちの、ある地点にフォーカスしてみたいと思います。
「9歳の壁」「小4の壁」「ギャングエイジ」といった言葉を聞いたことがありますか?
一般にも話題になることもあり、聞いたことのある方もおられるかもしれませんね。
9歳でなる、というよりも、だいたい9歳頃、という理解であり、人によってその傾向の見られる時期は前後しますし、そのあらわれ方や強さもさまざまであることは強調してお伝えしておかねばなりません。
さて、この9歳頃というのは子どもの心、精神的な発達はエリクソンの言う「学童期に」あると考えられますが、そこから「青年期」へ向かって行っているところですね。
この時期には、学校に入り、勉強をしたり、集団生活にも慣れてきて、他者の存在を意識したり誰かより出来る・出来ていないといった気持ちを経験したりするような時期に入ってきます。
表情や様子からの情報のみでなく、相手の気持ちをだんだんと想像したり、理解したりできるようにもなってくる頃でもあります。
いろんな複雑な気持ちを抱いたり気がついたりできるようになってくることで、豊かになっていく反面、それだけ悩んだり苦しんだり、葛藤したりするようなことも増えてきます。
身体もだんだん大きく力強くなり、挑戦できることも増えてきて、好奇心もでてきて、冒険的な時間を過ごせる、けれどそれをした結果どうなるか、という結果の予測の力はまだまだ心許ないところもある、そんな時期でしょう。
そして、ギャングエイジというのも、同じ9歳頃から見られる仲間集団を大切にする時期のことで、家族から離れはじめ仲の良い友人(内集団)との関係性を強め、閉鎖的な集団をつくることがみられるようになってきます。
自分のグループが良い、という感覚(内集団びいき)や、仲良しグループのようなものができてくるのも、だいたいこれくらいの時期ですね。
仲良しの集団の中で新しい価値観や対人スキルを学んだり、家族や先生に反抗的な態度が表現されてきたりするのもこの時期に見られるようになってきます。
グループでうまくいくために自分の言動を調節してみたり、あるいはうまくいかなかった時にハブる、いじめる・いじめられる、といった方向へ進んで行くこともあり、いろんな悩みや不安、躓き、葛藤が生じてくるようにもなってくることもあります。
もちろん、これらの様子は必ずしも誰にでも現れるわけではなく、そういった様子がほとんど見られない子もいれば、そのあらわれ方もその子らしさがあります。
絶対になるわけではない、自分の子供がどのようにこの時期を迎えて過ごすか、ということはその時にならないと誰にもわかりません。
けれど、その時期に子どもたちにそういう傾向がみられることがあること、そしてその中で悩むかもしれない、壁にぶつかるかもしれない、ということを理解しておくことで、周囲としてもサポート体制を組みやすくなります。
*褒めることと励ますこと
たくさん褒めることや励ましの言葉をかけることの大切さというのはよく述べられるものですが、その部分だけが独り歩きしているようにも思われるので、ちょっと気をつけたいポイント。
やたらになんでも褒めればいいかと言えばそれは少し違くて、褒めたいポイントを、適切な温度感・距離感で伝えることが大切かと考えられます。
そんなに褒められることでもないようなことをやたらと褒められたり、必要以上に明るく褒められたり励まされたりしたときには、今度は嘘っぽく聞こえてしまって逆効果になってしまいかねません。
また、関係のないところから急に褒め言葉をかけても、かえって警戒心を煽ってしまう可能性もあります。
もちろん、褒めること、励ますことは大切ですが『適切に』『適度な温度感・距離感で』というのも大切なポイントかと思われます。
*話を聴くこと
話を聴く、というのは、実はものすごいエネルギーを要することでもあります。
なんでもかんでも話を聞いてあげたり、話してもらうということが大切かというと、それはとても悩ましいところ。
相手が言いたくないタイミングの時もありますし、後で言おうと心の準備をしているかもしれません。
あるいは、自分で立ち向かおうと奮い立たせて考えている最中かもしれません。
話してもらう、話を聞いてあげる、ということは、必ずしもいつも望ましいこととは限らない、といった難しさがあるのですね。
悩んでいる人には力になってあげたくて、ついアドバイスをしたりしてしまうこともあるかもしれませんが、相手がどうしたいか、相手の気持ちを汲み取りながら、一緒に考えたり悩んだりしてあげることも、とても大切なことです。
悩む子供を見て、なんとかしてあげたい気持ちが湧くのはとても自然で素晴らしいことです。
その気持ちを持ちながら、「今」どんなサポートが必要だろうか、ということを考えながら、大切な時期を丁寧に進んでいけたらいいなあと願っています。
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